日本政策金融公庫の創業計画書(事業計画書)には、運転資金の記入欄があります。
運転資金は、創業時だけでなく事業開始後に、どのくらいの資金が必要になるかを説明する際に使う数字です。
これから創業計画書を作成する方にとって、
- 運転資金の定義は?
- 人件費や家賃は含まれるの?
- 何か月分記入すれば良いの?
という点は気になるところですよね。
そこで今回は、創業融資を検討されている方のために、創業計画書における運転資金の定義と書き方について解説していきます。
本記事を読むことで、創業計画書の運転資金の範囲を把握することができ、正しい数字を記入することができます。
🔸創業計画書における運転資金の定義(何が含まれて、何が含まれないか)
🔸創業計画書に運転資金を「何か月分記入すればよいか」の目安
🔸運転資金と事業の見通し(実績予測など)との整合性の取り方
🔸融資の審査で重視されるポイントや注意点
| 監修: 駒田 裕次郎 駒田会計事務所【コマサポ】代表 | ||
| 【来歴】大手監査法人の経験を活かし、創業支援・補助金サポートを中心とする「駒田会計事務所」を東京・渋谷に設立。資金調達や事業計画の作成、税務や経営相談まで顧客に寄り添うきめ細やかなサポートを提供。 【実績】創業融資・補助金の支援実績は、累計3,000件以上(2026年4月末現在) 【所有資格】 ・日本公認会計士協会 東京会所属(第26214号) ・東京税理士会所属(第118805番) ・経営革新等支援機関(認定支援機関) | ![]() | |
| 「一人ひとりの起業家の成功を願い、日本の未来を明るくする」をモットーに、日々奔走。 | ||
目次
運転資金は事業運営に必要な継続的な資金であり、審査の際に重要なポイントとなります。
創業融資は、万が一通過しなかった場合、最低でも半年間は再申請ができません。安心して申請いただくためにも、融資のお申込み前に、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。
そもそも運転資金とは?融資担当者が重要視する理由
運転資金とは、事業をスムーズに運営するために継続的に必要となる資金のことを指します。
よく、人間の体において必要不可欠な「血液」にも例えられます。
例えば
- 商品の仕入れ代金
- 家賃
- 人件費
- 広告費
など、どれも事業活動を続けるうえで欠かせない費用です。
特に、創業直後は売上が安定するまでの間に支出が先行するため、計画的な資金準備が不可欠です。
一方で、店舗の内装や機械の購入などは「設備資金」として別に区分されます。ここを混同しないことが、創業計画書を正しく書く第一歩です。
運転資金・・・継続的に必要となる資金
設備資金・・・一時的に必要となる資金
設備資金と運転資金の違いについては以下の記事で詳しく説明しています。
また、運転資金については融資担当者が厳しくチェックしている項目でもあります。
融資担当者が運転資金を厳しくチェックする理由は以下の通りです。
- 資金ショートのリスクを測る最重要指標だから
- 借入金を返済できるかどうかの能力を判断できるから
- 融資後に資金が適切に使われるかを見極めるため
つまり、運転資金の金額設定は「事業を続けられるかどうか」を判断する基準そのものなのです。
運転資金に含まれる費用の具体例
運転資金には様々な分類方法がありますが、変動するかどうかという観点では、変動費と固定費に分けられます。
変動費の例
- 仕入費
- 材料費
- 外注費
- 運送費
- 消耗品費
- 販売手数料
- パートやアルバイトの給与
固定費の例
- 店舗や事務所の家賃
- 広告宣伝費
- オフィス機器や車両などのリース代
- 保険料
- 水道光熱費
- 人件費(正社員・常勤社員の基本給)
- 減価償却費
固定費には変動するものもある!
固定費のなかには、広告宣伝費や水道光熱費、人件費など、必ずしも一定額とはならないものも含まれています。
少しわかりにくいですが、固定費については以下のように覚えておきましょう。
♦売上の増減に比例しない費用
♦毎月、一定額以上の費用がかかるもの
注意!創業計画書の運転資金欄に書くべきでない項目
運転資金として創業計画書に記載できない代表的なものは、以下の6点です。
1️⃣設備資金(例:店舗内装、機械購入など)
運転資金ではなく「設備資金」として区分されているため、運転資金と混同しないことが重要です。
2️⃣起業前に使った費用(過去分)
原則、融資は「これから使う資金」のため、既に使った費用は対象外です。過去の支出は「自己資金」や「既支出」として別枠で整理します。
3️⃣生活費(家賃、食費などの個人の支出)
事業と関係のない私的支出は対象外です。
運転資金には含めません。
4️⃣税金や社会保険料の滞納分
融資目的が事業拡大や運転維持のためであり、過去の未納金の支払いは審査上マイナス要素になります。
5️⃣返済資金そのもの(例:他の借入の返済原資)
「借りて他を返す」は資金繰りとして健全ではないと判断されます。資金使途として不適切です。
6️⃣敷金・保証金・権利金
店舗や事務所の敷金・保証金・権利金は、設備資金に該当するため運転資金には含めません。一方、家賃や礼金は運転資金となります。
減額の対象にされる可能性のある運転資金
実際の融資審査では、以下の費用は「削られる」可能性があるとされています。
- 広告宣伝費
- 法人で融資を受ける際の役員報酬
- 経営者自身の自己啓発費用
広告宣伝費など、実際は事業に必須な費用ではありますが、「起業のために切実に必要な資金ではない」、「必ずしも事業継続に直結しない」と判断されやすいため、必要以上に膨らませないことがポイントです。
【3ステップで完了】運転資金の具体的な計算方法
「運転資金をどうやって計算したらいいのか分からない…」という声は多いですが、実はたった3つのステップで完了します。
以下の流れに沿うと、簡単に必要な運転資金を導き出せます。

ステップ1:1ヶ月分の必要経費(固定費+変動費)を洗い出す
まずはご自身の事業で毎月かかる経費をリストアップしましょう。
前章で紹介した「固定費」と「変動費」の表をご参照ください。
🟨固定費
毎月必ず発生する費用
家賃・人件費・光熱費・通信費など
🟨変動費
売上に応じて発生する費用
仕入れ・材料費・外注費・販売手数料など
まだ金額が確定していない場合は、「まずはざっくり数字を出す」ことが最初の一歩です。
たとえば、以下のように行うのが現実的です。
🟨家賃
候補物件の賃料を参考にする
🟨人件費
求人サイトに掲載されている平均額を目安にしたり、「賃金構造基本統計調査(産業別)」を参考にする
出典:厚生労働省 令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概要
ステップ2:必要な運転資金の「月数」を決める
次に、何か月分の運転資金を確保しておくべきかを決めます。
一般的な目安は 3か月〜6か月分です。
なぜ3か月~6か月分かというと、
- 売上が発生しても入金までにタイムラグがある
- 開業直後は売上が安定せず、赤字が続く可能性がある
- 不測の事態(顧客の支払い遅延、売上不振など)に備える必要がある
といった理由があるためです。
また、業種によっても適切な月数は変わります。
例えば、現金商売が中心の小売業や飲食業は3か月分で十分なこともありますが、入金サイトが長いIT業や建設業は6か月分を見込む方が安心です。
【業種別】運転資金の目安一覧
各自の事業状況によるため以下はあくまで目安となりますが、各業種ごとの運転資金の特徴を表にまとめました。
| 業種 | 運転資金の目安(月商換算) | 特徴・理由 |
| 製造業 | 3〜4か月分 | 原材料仕入れ(支出)〜回収(入金)まで時間がかかる。受注生産型はさらに多く必要。 |
| 卸売業 | 2〜3か月分 | 在庫管理・信用販売に対応する資金が必要。 |
| 小売業 | 1〜2か月分 | 商品の回転が早く現金売上も多い。季節商材は多めの資金確保が必要。 |
| サービス業 | 1〜2か月分 | 在庫がないため少なめで済むが、人件費などの固定費に備えが必要。 |
こちらの記事では、起業時の運転資金の目安について説明しています。
ステップ3:「1ヶ月分の経費 × 月数」で運転資金を算出する
最後に、次の計算式を使って必要な運転資金を算出します。
(1ヶ月の経費合計) × (必要な月数) = 運転資金
<例:カフェを開業する場合の運転資金>
- 1ヶ月の経費合計:50万円
- 必要月数:3か月
50万円 × 3か月 = 150万円
このように、シンプルな掛け算で「運転資金」を導き出すことができます。
【記入例つき】日本政策金融公庫の創業計画書への書き方
「運転資金の計算はできたけれど、それを創業計画書にどう書けばいいの?」
そんな疑問を解消するために、日本政策金融公庫(以下、公庫)のフォーマットに沿って、具体的な書き方を解説いたします。
ここからは、日本政策金融HPに掲載されている記入例(洋風居酒屋)を使って詳しくみていきましょう。
「必要な資金」欄の書き方
創業計画書の「8.必要な資金と調達方法」の中にある「運転資金」の欄に、先ほどの式で算出した合計金額を記入します。

記入例のように、金額だけでなく「内訳」を簡潔に添えることが重要です。
- 仕入 90万円
- 広告費等諸経費 140万円
- 家賃等 60万円
根拠を示すことで、融資担当者から「計画が甘い」と思われるリスクを避けられます。
「調達の方法」欄の書き方
次に、同じ表の「調達の方法」に、運転資金と設備資金をどのように賄うのかを記入します。

記入例の内訳は以下の通りです。
- 自己資金 360万円
- 借入金(父) 200万円
- 日本政策金融公庫からの借入 700万円
資金調達額の合計は1,260万円で、これは「必要な資金」の合計と同額になります。
内訳の各項目にも注意点がありますので、詳しくみていきましょう。
①自己資金
自己資金は、基本的には創業のために自分でコツコツ貯めてきたお金のことを指します。
弊社コマサポでは少なくとも10%、可能であれば30%の自己資金を用意することを推奨しています。
起業に必要な自己資金の目安や定義など、詳しくはこちらの記事をご参照ください。
②親、兄弟、知人、友人等からの借入
親族や知人などからの借入がある場合は、
- 誰から
- いくら借りたのか
- 返済額、返済回数、利率
を記載します。
親など親族からの借入の場合でも「金銭消費貸借契約書」を作成し、返済期日などを決めておきましょう。
審査の際に「金銭消費貸借契約書」の提出が求められる場合もあります。
③日本政策金融公庫 国民生活事業からの借入
公庫からの借入予定金額を記載します。
設備資金と運転資金の合計から、他の借入金額を引いて不足する金額を記入します。
設備資金と運転資金の合計 -(自己資金 + 親、知人等からの借入 + 他の金融機関からの借入)
運転資金を全額借入で賄おうとすると、審査の際に「返済負担が大きすぎるのでは?」と不安視されることがあります。
一部でも自己資金を充てることで、事業への本気度やリスク分担の姿勢を示すことができ、心証が良くなります。
④他の金融機関からの借入
すでに他の金融機関からの借入がある場合は、以下の内容を記入します。
- どこの金融機関から
- 借入金額合計
- 月の返済額、返済回数、利率
【重要】「9.事業の見通し」との整合性
重要ポイントは「事業の見通し」と整合性を合わせる点です。
運転資金のすぐ下に「9.事業の見通し(月平均)」という記入欄があり、創業当初と1年後の事業がどうなっているかを書く必要があります。

「運転資金」の仕入は90万円でした。
上記の「売上原価②(仕入高)」が87万円でほぼイコールとなっており、整合性が取れていると言えます。
このように、運転資金は事業の見通しと数字を合わせることが重要です。
運転資金ありきで考えるのではなく、まずは収支計画を作成し、どのくらいの運転資金が必要かを算出するようにしましょう。
- 売上高の見込み
- 人件費の金額
- 家賃や仕入れ費用の算出根拠
これらを「必要な資金」欄の内訳ときちんと対応させることで、説得力が格段に増します。
説得力が劇的にアップする算出根拠の記載例
運転資金 150万円
金額だけを記載しており、なぜその金額なのかの説明がないため、計画の甘さを疑われる可能性があります。
運転資金 150万円
<内訳>
家賃20万円 × 3か月分 = 60万円
人件費15万円 × 3か月分 = 45万円
仕入代金15万円 × 3か月分 = 45万円
<根拠>
売上の入金サイクルが2か月程度のため、開業初期の顧客獲得期間を考慮して3か月分を計上。
このように、内訳と根拠を具体的に記載することで融資担当者が納得しやすくなります。
融資担当者はココを見ている!運転資金計画の注意点とよくある失敗例
運転資金の計画は、融資担当者が厳しくチェックするポイントのひとつです。
融資の専門家(税理士、会計士、認定支援機関)としての経験から、以下の3点は特に重視されていると言えます。
- 金額の適正さ
- 自己資金とのバランス
- 売上計画との整合性
ここを押さえておかないと、せっかくの事業計画も「机上の空論」と判断されてしまいかねません。
それぞれ詳しくみていきましょう。
注意点1:金額の適正さ
金額は多すぎても少なすぎてもNG!
融資審査では、計上した運転資金の「多さ・少なさ」が必ず見られます。
🟨多すぎる場合
「なぜそんなに必要なのか?計画が杜撰では?」と疑われる
🟨少なすぎる場合
「この金額で事業が回るのか?すぐ資金ショートしないか?」と不安視される
だからこそ重要なのは 「算出根拠の明確さ」 です。
売上見込みや経費支出のシミュレーションを示し、「なぜこの金額になるのか」を説明できることが、信頼を獲得するカギになります。
注意点2:自己資金とのバランス
自己資金の目安は、創業資金総額の10~30%程度!
金融機関は、自己資金の割合を「事業への本気度」として判断します。
🟨自己資金がゼロに近い場合
「リスクをすべて金融機関に負わせるつもりでは?」と疑われる
🟨自己資金をある程度準備している場合
「本気で事業を成功させる覚悟がある」と評価されやすい
起業に必要な自己資金の貯め方については、こちらの記事をご覧ください。
注意点3:「売上の見通し」との整合性を意識する
創業計画書では、「売上見通し」と「運転資金計画」を必ずセットで確認されます。
🟨高い売上を計画しているのに、運転資金が極端に少ない
「資金繰りが合っていない」と判断される
🟨売上計画に見合った運転資金を計上している
信頼性の高い計画と評価される
数字同士の整合性は必ずダブルチェックしておきましょう。
しっかりと記載できているかどうか、専門家へ相談することも融資の通過率アップのためには有効です。
【Q&A】運転資金に関するよくある質問
必要です。
むしろ赤字期間は資金繰りが厳しくなるため、運転資金の重要性はさらに高まります。赤字補填のための資金調達が必要になる場合もあります。
日本政策金融公庫などでは追加融資の相談が可能です。ただし、既存借入がある場合は返済能力が審査され、借入総額が適切かどうかを厳しく判断されます。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
運転資金には原則不要ですが、設備資金については見積書が必須です。
早めに業者に依頼したり、オンライン購入なら金額が分かる画面コピーを準備しておきましょう。
まとめ:自信の持てる計画書で、事業成功への第一歩を踏み出そう
運転資金は「事業を回すための血液」とも呼ばれる重要なお金です。
この記事では、運転資金の考え方から計算方法、そして創業計画書への書き方までを解説しました。
特に大切なのは次のポイントです。
- 3ステップでの計算方法
①1か月の経費を洗い出す
②必要月数を決める
③掛け算で算出する - 算出根拠の明確さ
「なぜその金額なのか」を示すことが信頼につながる - 売上計画や自己資金との整合性
数字の矛盾は信用を失う原因に
創業計画書を提出する前には必ず最終確認を行いましょう。
以下のチェックリストをご活用ください。
完璧な計画も大事ですが、最初から一人で抱え込む必要はありません。
資金計画や創業計画書の作成は、専門家に相談することで格段に精度が高まります。「自信の持てる計画書」を武器に、あなたの事業の第一歩を踏み出してください。
私たちも全力で応援しています。
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駒田会計事務所【コマサポ】
代表 駒田裕次郎 税理士・公認会計士・認定支援機関

駒田裕次郎































